許すことを学ぶ

10年前の3月11日、テレビに映し出されるあまりにも衝撃的な風景を心で観た男の子がいました。そしてテレビの風景は、その男の子の小さな心に、小さな小さな灯火を宿しました。

『困っている人たちを助けたい』

志を胸に次男が家を出てからやがて1年になります。

次男はあの震災を目の当たりにした日からずっと、自衛官になって困っている人を助けられる人間になることが夢です。そして15歳の時、自らその夢に近づく選択をし、神奈川県にある陸上自衛隊高等工科学校へ進学しました。

自分の夢のために進学したと言っても、中学を卒業してすぐの集団生活。授業中だけではなく寝食も常に一緒。居室は6人部屋で、大浴場にトイレも共用。洗濯やアイロンがけ、靴磨き、ミリ単位のベッドメイキングに裁縫など、身の回りのことも全て自分たちでやらなければなりません。しかも分単位の決められた時間の中で。

いわゆる普通の高校生と異なるのはそれだけではなく、常に危険と隣り合わせの状況で自衛隊員としてどう振る舞うのかを学びます。そういった状況では個人の行動はもちろんのこと、スムースな集団行動がとても重要であることは想像に難しくないでしょう。

入学後、通常ならゴールデンウイークに初めての帰省が許可されるのですが、今年度は残念ながら叶わず。夏に初めて帰省した息子と買い物に行った際、静かに、でもしっかりとした声で語ってくれた彼の言葉が忘れられません。

息子:「許すことを学んだっちゃんねー」

母:「ん?」

息子:「今まで15年間、生まれも育ちも違う人間と24時間一緒に過ごすとよ。そんな状況で相手に『なんで?』とか『意味わからん』とか思っとっても全然まとまらんと。だって分からんの当たり前やん。だけん、そいつはそんなやつなんよって許すことにしたとよね。そして、そんなやつとどうしたらうまく付き合えるか考えることにしたと。あそこ(高等工科学校)に行って一番に、許すことを学んだね。」

今日のおやつは新作のドーナツ
緊急事態宣言により外出禁止中の息子にも食べさせたいな〜

小さい時からリーダー役を自ら進んで引き受けるような息子でしたが、右も左も分からない世界でもまとめ役としての任務を任されているとのこと。うまく行かない状況で考えに考え、試行錯誤の末『許すこと』を学んだのでした。

7月の初めての帰省時、空港の到着口から出てきた息子の姿を見るなり、外観だけではないその大きな成長を肌で感じましたが、私の想像を遥かに超える生活の中で、ひとり、何を見て何を考えたのか。きっと自分の持つありったけの力を振り絞って日々過ごしているのだろう。親としてこの子にできることは信じて見守ることだけだなぁ、と確信しました。

最近は進級に伴う居室の引っ越しで忙しそうな様子。大好きなラグビーも本格的な練習が再開したそうで、電話連絡も少なくなってきました。(入学後1年間は携帯の所持が認められていないので、公衆電話からの電話です。)月に1回くらいお互い手紙のやりとりをしているのですが、先日届いた手紙にこう書いてありました。

<母さんや父さん、兄や妹たちに休暇で初めて会った時は、内心うれしすぎて泣きそうなくらいでした。>

母さんはこの手紙を読んで泣きそうです。

最後までお読みいただきありがとございました。

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